一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
三船と呼ばれた女性は、ポロリと涙を溢した。
「いったいどちらにいらしたんですか⁉」
涙声の問いに答えることはなかったが、優しい声で紗羽は三船に話しかけた。
「長いこと連絡できなくて、すみませんでした」
「……紗羽さんがお元気でさえいてくだされば、なにも言うことはありませんけれど」
三船は涙をエプロンの裾で拭ってから笑顔を見せた。
「今日、あの人は?」
なるべく感情が悟られないように、紗羽は『あの人』という呼び方をした。
「匡さまはお仕事で関西に出張中なんです。今夜にはお帰りになる予定です」
「そう」
三船は残念そうな声をしていたが、匡が留守なのは紗羽の予想通りだ。
今日は日曜日だが、仕事しか頭にない人だから屋敷にはいないだろうと思っていた。
「じゃあ、ちょっとだけ上がらせてくださいね」
「紗羽さんの家じゃあありませんか。そんな他人行儀な」
三船の横を通って玄関から上がると、真っ直ぐ廊下を進んで匡の書斎に入った。
留守に勝手に入ったと彼は怒るかもしれないが、大切な用事なのだから紗羽は気にしないことにした。