一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
「それじゃあ、今日のお夕食からお願いね」
「あ、でも今日は塾があって!」
紗羽は焦っていた。
早く行かないと遅刻してしまうし、親友のゆかりにも塾でしか会えないのだ。
部屋を変えられたこともショックだが、いきなり夕食を作れと言われても困ってしまう。
「塾はお金がかかるんでしょ。やめてもらうから」
志保は当然だろうという顔をする。
「あなたもこの家に住みたいんだったら働いてくれないと困るわ」
「え?」
働いてくれと言われて、紗羽はポカンとしてしまった。
「居候なんですもの。家のことくらいできるでしょ?」
「い、居候?」
志保の口からは信じられない言葉が次々に飛び出してくる。
「あなたはこの家の居候なの。あなたは親を亡くして可哀そうだからこの屋敷に置いてあげてるのよ」
「そんな……ここは……私が生まれて育った家です!」
紗羽が叫ぶと、左の頬に強烈な痛みがはしり体がよろけた。
生まれて初めての経験に紗羽は何事かと思ったが、どうやら志保に叩かれたようだ。
「生意気な子。文句言わずに、さっさと仕事なさい!」
志保は納戸に置いていた空の花瓶を紗羽の足元に投げつけて怒鳴った。
砕け散ってあちこちに散乱する花瓶の破片。
紗羽の心も壊れてしまった。もう口答えする気力は湧いてこなかった。