一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
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ここは、モリスエ・エレクトロニクスの社長室。ベイエリアにある高層ビルの最上階にある部屋だ。
東京湾が一望できるから夏には輝くような青空と海が楽しめるのだが、今は梅雨らしい灰色の動きの遅い雲の動きしか見えない。
室内は落ち着いたモノトーンの家具で統一されているのに、窓と反対側の壁面にだけ強烈な色彩の抽象画が掛けられている。
これはニューヨークに絵の勉強に行った匡の弟翔が最近売れ始めたからと、わざわざ匡に送りつけてきた作品だ。
『アニキって、ホントはこんなタイプだと思うんだよね』
電話で翔が言った言葉がやけに耳に残っていた。
弟に言わせれば匡はモノトーンの似合うクールな性格ではなく、この絵のような派手な色彩の激情型の人間らしい。
「社長、小椋電子の清水副社長がおみえになりました。こちらにお通ししてよろしいですか?」
秘書の山根が確認するように匡に声を掛けてきた。
匡は清水の入室を許可するよう、山根に目で合図した。
「失礼いたします」
社長室に、緊張した様子の清水が入ってきた。