一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
清水は驚く話を切り出した。
六月末で、長年勤めた小椋電子を退社するというのだ。
清水だけでなく主だった技術者や古参の職人も辞めるという。
「まさか……」
清水やベテランの社員は製造現場では得難い人材だ。
それが急に何人も退社するというのは尋常ではない。
「亡くなった社長の息子さんが新社長に就任してから、得体の知れない経営コンサルタントの言いなりで……コスト削減だとかで年季の入った職人や役職のリストラを始めたんです」
「納期に影響が出たのはそのせいか」
匡の側で聞いていた秘書の山根まで、眉をしかめて頷いている。
「前社長が築き上げた信用もこれで終わりです。モリスエ・エレクトロニクスさんとの契約は、下半期からは無理だと思っていたところでした。ご希望に沿える仕事は、今の小椋電子ではできません」
「それで、今日はあなたがいらしてくださったんですね」
「はい。新しい社長が嘘をついて契約更新してしまっては申し訳ありませんから………」
会社を辞めていく清水が、長年の関係に対して誠意を見せてくれたのだろう。
「わかりました。言い難いことでしょうに、ありがとうございます」
匡は清水の話を聞いて、今後の契約は考えると断言した。
「清水さん、社長にお願いがあるとおっしゃいましたが契約の件だけでしたか?」
ふと気になったのか、山根が清水に声をかけた。
彼がまだ何か言いたそうにしていたのだ。
「実は……個人的なお願いなんですが、聞いていただけませんでしょうか?」
「なんでしょう?」
清水は持参していた一通の手紙を見せた。