一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
清水も匡からすれば父親世代の年頃だ。
その清水が、若い彼に深々と頭を下げてくる。
「お門違いだとおっしゃるかもしれませんが、なんとか紗羽さんを助けていただけませんでしょうか?」
「清水副社長……」
「会社を辞めていく私がお願いするのは申し訳ないのですが、亡くなった小椋社長は匡さんのことをとても信頼されていました」
「ええ。私が若輩ながらこのモリスエ・エレクトロニクスを継いだとき、小椋社長が親身になって支えてくださったことは忘れていません」
小椋社長からは仕事面だけでなく、『人の話を聞け』とか『周りを見ろ』とか社長としてあるべき姿を指摘されたものだ。
「ですから……匡さんにおすがりしようと思ったんです。紗羽さんには頼れるご親戚もいません。これ以上紗羽さんを不幸な目にあわせたくないんです」
「そのお気持ちはわかりますが……」
匡も言いよどんだ。
理不尽な環境に置かれたのは気の毒だが、かといって自分が出しゃばっていいものかどうか思案する。
彼女にとって厄介な存在でも小椋孝二は後見人なのだ。
「社会的地位も財産もお持ちのあなたしか頼れません。私は小椋電子がどうなっても構いませんが、紗羽さんはなんとか助けたい。もちろん、私もできる限りのことはいたしますが、あの一家からお嬢さんを救い出すのにご協力をいただけませんでしょうか?」
机の上に両手をついて、清水が深く頭を下げた。
匡も覚悟を決めなければいけないだろう。
「頭をお上げください。私になにが出来るかわかりませんが、秘書の山根も力になってくれると思いますよ」
「あ、ありがとうございます。家政婦の三船から手紙をもらうまで気がつかなかったことが悔やまれてなりませんでした。やっと亡くなった社長に顔向けができそうです」
匡の言葉にがばっと顔を上げた清水は、男泣きしそうなくらい感激した面持ちだった。