一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ



匡はさっそく清水と今後の相談をして、小椋家の顧問弁護士の連絡先など情報を交換した。
山根も娘を持つ父親として他人事とは思えないようで、真剣に話を聞いている。

「葬儀の日に紗羽さんが着ていた制服が、末の子が目指している高校のものだったんです」
「そうでしたか」

山根の言葉に清水が遠い目をしながら思い出を語り始める。

「とてもがんばりやさんで成績のいいお嬢さんなんです。『お父さんの会社に入りたい』なんて娘に言われたって社長は嬉しそうに話していましたねえ……」

家族の幸せは崩れ去り、遺されたひとり娘は異母兄に夢を奪われようとしている。
とにかく彼女を小椋孝二から離さなくてはいけないし、相続すべき財産を守ってやりたい。
三人の意見は一致した。

「私も個人的に森末家の弁護士と相談してみます。なにかあれば清水さんにもご報告しますから」
「森末社長、よろしくお願いいたします」

清水は匡と約束出来たことで安心したのか、社長室に来たときとは違う穏やかな顔をして帰っていった。
山根が見送りに部屋を出ていくと、思わず匡は深くイスにもたれかかった。

「気が滅入る話だな」

独りになると、思わず呟いた。
家政婦の手紙を読むだけで腹立たしかったが、清水から得た情報ではムカつくことばかりだった。
経営コンサルタントに踊らされて、小椋孝二はせっかく代々の社長が築き上げてきた小椋電子を潰してしまうだろう。

(家政婦代わりに異母妹をこき使うって、なにを考えているんだか……)

紗羽という娘が将来や財産を失ってしまう前になんとかしなければと匡は考えていた。




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