一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


***


三船が辞めさせられてから、紗羽の生活は一変した。
学校の勉強と家事に追われているうえに、買い物までさせられている。
かつては屋敷に配達されていた食品や日用品の買い物に、なぜか紗羽が行くことになったのだ。
おまけに志保から生活費だと渡されるお金はこのところ少なくなっている。
どうやら孝二が社長に就任してから会社の経営状態が悪化してきているようだ。
一番の要因は父が亡くなったことだが、孝二が古参の技術者や部長クラスの管理職を次々にリストラしているらしい。

彼らは義理堅く、父の仏壇に線香をあげて紗羽に別れの挨拶をしようと屋敷に来てくれる。

『お嬢さん、申し訳ありません。社長が大切にしてこられた会社をこんな形で辞めることになってしまって……』
『父のためにありがとうございました。どうぞお元気で』

社員たちは幼い頃から紗羽を可愛がってくれたので別れの挨拶は辛かった。
(会社がなくなってしまったらどうしよう)と思いながらも、なにもできない自分が情けなかった。



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