一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
ほんの少し心が温かくなった気がして屋敷に入ると、やはり絵美が待ち構えていた。
「遅いじゃない!」
「ごめんなさい。頼まれた物は買ってきたから」
「じゃあ、お茶入れて」
なんとかキッチンまで重い荷物を運ぶと、さっそく絵美が当然のように言う。
「でも、夕飯の支度をしないと……」
「友達が待っているの!」
「わかったわ」
紗羽が紅茶をいれようと湯を沸かしかけたら、ガサガサと買い物袋を漁っていた絵美が素っ頓狂な声をあげた。
「いやだ! 私が頼んだのはケーキよ?」
「え? 買い物メモにはクッキーって……」
紗羽の手元にある絵美から渡されたメモには、確かに駅前のパティスリーでクッキーを買うように書かれている。
「なにボケけてるの? 急いで買ってきてよ!」
「今から?」
「頼んだわよ」
それだけ言うと、絵美は自分の部屋に戻っていった。数人の女の子の笑い声が聞こえる。
ついこの前まで紗羽の部屋だった場所で、楽しく遊んでいるのだろう。
これからまた駅前までケーキを買いに行って、夕食を作っていたら……。
紗羽は途方に暮れた。志保の不機嫌な顔が目に浮かぶ。
でも目の前にある用事を優先して片付けていかないと、もっと大変なことになりそうだ。
冷蔵庫に夕飯の食材を入れると、庭を走りぬけて門から出た。
(急いだらなんとかなるかも……)
紗羽が屋敷の塀に沿って小走りで急いでいたら、車の爆音が聞こえてきた。
この辺りでは珍しいと思っていたら、スポーツカーがかなりのスピードで角を回り込んできたのが見えた。
「あっ⁉」
紗羽は咄嗟に避けたが、思い切り塀にぶつかって、おまけに足首をひねってしまう。
(い、痛い……)
捻挫だろうか、力を入れようとしたら激痛が走った。
みるみるうちに右の足首が腫れあがってくる。