一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
「ん? 熱っぽいのか?」
紗羽の横に座った男性からサッと手が伸びてきて、額に手のひらをあてられる。
「まさか折れてはいないと思うが……熱があるようなら心配だな」
「だ、大丈夫だと思います」
高級車の広い後部座席にちょこんと座ったまま、紗羽は胸の動悸に悩まされていた。
手のひらのひんやりとした感触だけで、心臓がどくどくと音を立てているのだ。
「私、小椋紗羽といいます。ご迷惑をおかけしてしまって……」
「ああ、知ってる」
「は?」
信じられない思いで、紗羽はゆっくりとその人の顔を見つめた。
さっきは痛みと驚きで直視できなかったのだ。
「あ……あなたは……」
少し長い前髪、整った眉と涼し気な目元、高い鼻梁と口元のラインが美しい。
あの夜に見かけた人だと気がついた。
「小椋紗羽さん、会うのは二度目かな? 森末匡だ」
「森末さん……モリスエ・エレクトロニクスの社長さんでしょうか?」
美しい顔をこくりと縦に振ってその人は話し続けた。
「君のお父さんとは仕事仲間だった」
「父と?」
「ああ。五年ほど前から付き合いがあって、随分お世話になった」
「そうですか、父と……」
それきり、紗羽は口を閉じてしまった。
通夜の夜に優しい言葉をかけてくれた人が隣に座っているのが信じられない。
なんだか胸が一杯になって、言葉が浮かんでこなかったのだ。