一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
なんとか言葉をつないだが、声が震えそうになってしまった。
ぐっとこらえて大好きな三船に深く頭を下げると、紗羽はハイヒールを履いて玄関に立つ。
三船はなにも言わずに、慈愛に満ちたまなざしで紗羽を見つめるだけだった。
紗羽はゆっくりと庭を歩いて門に向かう。
この屋敷の広い芝生に水やりをしてびしょびしょになって騒いだ夏の日のこと。
リビングの天井に届きそうなクリスマスツリーに飾りつけをした日のこと。
まっ白なウエディングドレスを着て、ガーデンパーティーをした日のこと。
そして、彼との初めての夜……。
それから毎晩のように、彼の逞しい腕の中で歓びに震えたのだ。
脳裏に次々と浮かんでくる思い出が美しすぎて、紗羽の呼吸は少し乱れた。
(もう、泣かない。泣かないって決めたから)
紗羽は振り返ることなく屋敷を出た。
紗羽と匡が初めて出会った日から、もう九年が過ぎようとしていた。