一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


***


偶然にしても、いいタイミングだったと匡は思った。
今、病室には眠ってしまった紗羽と自分のふたりだけだ。

あれからすぐに匡の知り合いの病院へ紗羽を連れて来たが、思ったより怪我は酷かった。
紗羽は右足首の靭帯を痛めていて、全治三週間と診断された。
固定して痛み止めの点滴をするころには、紗羽は疲れていたのか眠ってしまった。

しかも念のためにおこなった血液検査の結果も思わしくない。
『無理なダイエットでもしているんですか?』と、医師に言われるほどの栄養状態らしい。
通夜の夜に抱き上げたときも華奢だと思ったが、点滴のためにむき出しになっている腕はずいぶんと細い。
肝臓の機能も低下しているうえ、貧血気味だとも言われた。

(あの家で、どんな暮らしをさせられていたんだ)

たまたま屋敷の様子を見に行った日に、トラブルに遭遇したのは不幸中の幸いか。

(聞いていた以上に酷い……)

本来なら社長令嬢として、自家用車の送迎がある暮らしをしていただろう。
それなのに学校の荷物を持ったうえ、ショッピングバッグを両手に提げて坂道を歩いていたのだ。
匡はお世話になった小椋社長の忘れ形見が苦労しているのを見てしまった以上、知らなかったふりはできないと思った。



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