一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


(やま)しい気持ちがあるわけではないが、自分が思った以上にこの少女にのめり込んでいると気がついたのだ。

単にお世話になった小椋社長の娘だからとか長年付き合いのあった清水副社長の頼みだからといった理由をつけていたが、それだけではなさそうだ。

(この子はひと回りも年下だぞ……)

匡は自分の気持ちに驚いていた。
あの日、穢れのない瞳でじっと見つめられたときから紗羽を守りたいと思っていたのだろうか。

「う……ん……」

眠っていたはずなのに、うなされた紗羽はまたひとすじ涙を溢した。
泣くほど辛い夢を見ているのだろうかと思うと匡もやり切れない。

匡はそっと紗羽の手を握った。
点滴に繋がれたまま動かせずにいる左手だ。
細くて白い腕に、点滴の針が痛々しい。
柔らかく握ってやると、紗羽の指先が答えるように少し動いた。

小さくて華奢な指だ。
まだマニュキアもしていない短く切られた爪は小さな桜貝のようだ。
ただ、家事で荒れたのか少しカサカサとしている。

(もう、こんな目にあわせたりしない)

この子に似合うのは、清潔で明るい環境だ。
もう少し大人になったら、優美なドレスと宝石が似合うだろう。
きっと誰もが振り返る美しい女性になって、匡の隣で微笑んでいるはずだ。

(小椋紗羽……)

匡はそっと病室を出た。

(翔が言っていたのは、この気持ちのことか)

ただひとりのためにこれほど熱い気持ちになれるのを、匡は初めて知った。
すべては紗羽のために。
あの男から紗羽を守るために、自分のやるべき仕事をするだけだ。





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