一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


***


紗羽がまだ高校三年生だった去年の七月、梅雨が明けたばかりの頃。
いきなり『ここに住むように』と森末匡に言われたのだ。

ちょうど右足首の靭帯を痛めて入院した後だった。
紗羽の退院の手続きのため病院へ姿を見せたのは、森末匡ひとりだった。

「君を助けに来た」

通夜の夜に見かけた美しい人が、突然紗羽の目の前に現れたのだ。
彼の『助けに来た』という心地よい言葉に、思わず紗羽は彼の手を取った。

(あの生活から逃げられる!)

彼がモリスエ・エレクトロニクスの社長という以外になんの情報も持ち合わせていなかったが、通夜の夜に『大丈夫?』と掛けてくれた声の優しさを忘れてはいない。
彼が自分と手を繋いでくれるなら、どうなってもいいとさえ思えた。

彼はなにも話さないまま、紗羽を連れて病院を出た。
彼の運転する車に乗せられて、気がつけば大きなお屋敷に連れてこられていたのだ。




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