一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
初めて会った日
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九年前の秋。
ここは東京都内の、ある超高層ビルの建設現場。
工事の進捗状況を確認するオペレーションルームに、数人の男たちがいた。
いくつものディスプレイを見つめながら、そこにデータとして映し出される資材や職人の動きを確認する。
エレベーターはどの階で止まっているか、クレーンはなにを運んでいるのか。
ビル建設中の人や物の動きが、このひと部屋ですべてコントロールできるのだ。
「社長にこのシステムの導入を進められてから効率がグンとよくなりました」
「さすが、モリスエ・エレクトロニクスですな」
自分たちより年下の男性に対して、建設会社役員たちは感嘆の言葉を口にしている。
彼らにシステムの説明を続けているのは、電子機器メーカーの若き社長森末匡だ。
まだ二十九歳になったばかりだが、国内有数の電子機器メーカーの社長の肩書きは伊達ではない。
さらりと着こなした上質なスーツ姿は雑多な工事現場では異色だが、年齢以上の風格を感じさせるには十分だ。
知的な面立ちからは育ちの良さがにじみでているがひとつひとつの動作に無駄がなく、細身ながら鍛えられた体はシャープな印象を与えている。
「なにかご質問は?」
その低い声までが場の雰囲気を支配していた。