一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


思いがけない申し出にどうこたえようかと迷ってしまった。
その間が否定だと思ったのか、紗羽は少し沈んだ顔をする。

「いや、嫌いではない。子どもの頃以来だなと思って。弟とよく遊んだものだ」
「弟さんと?」
「ああ、翔というんだ。ニューヨークに住んでいるから君に紹介できないが、その壁にかかっている絵を描いたのが弟だ」

ダイニングルームの壁にかかっている20号くらいの作品で、緑の濃淡を抽象的な筆使いで描いたモダンアートだ。

「ここのお庭を描いたのですか?」
「さあな。近頃は売れるようになったらしいが、なにを描いてるかさっぱりわからない」
「お兄さんが経営者で、弟さんが芸術家だなんて面白いですね」
「同じ親から生まれたはずなんだが、性格は真逆なんだ。アイツは会社員なんて大嫌いらしい」

だが翔に言わせれば兄弟の本質は同じで、表面的だけ反対のタイプに見えているという。

『アニキって、ホントはこんなタイプだと思うんだよね』

弟が過去に言っていた言葉を、匡は思い出していた。社長室に掛けている翔の絵は赤を大胆に使った絵だ。

「いつか、お会いしてみたいです」

「そうだな。この次に帰国した時には紹介しよう」
「はい!」

それからは三船も交えて食事をして、楽しい時間を過ごした。




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