一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


「別に花くらい、許可がなくても好きに植えればいい」

匡は、紗羽の謙虚な言い方を気にもとめなかった。

「好きにしていいんだ」

ウイスキーをロックで飲みながら匡は簡単に言ったのだが、紗羽にとっては重大なことのようだ。
さっきまでのほろ酔い加減から、みるみる真剣な面持ちになる。

「いえ、私はここでお世話になってるのに勝手にお庭を弄るなんて……」

『世話になっている』という言葉に、匡は引っ掛かりを覚えた。
だからさっきも『花火大会に匡と行きたい』とわがままは言えないと遠慮していたのか。

「そんなこと、君は気にしなくていい」
「匡さん……」

常に遠慮しながら紗羽がここにいたと思うと、匡は無神経だった自分に腹が立つ。
いかに紗羽が大切な存在なのかをきちんと話しておくべきだった。

「成人式を迎えても、大学を卒業しても、好きなだけここにいればいい」

匡は紗羽になんとか自分の気持ちを伝えようと、言葉を選びながらゆっくり話しかけた。

「え? あの、好きなだけって……」

戸惑いの表情を見せる紗羽の手を匡はそっと握る。


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