一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
「ここが、君の居場所だ」
「私の居場所?」
「好きな花を植えて、育てて……この屋敷で楽しく過ごしてくれたら嬉しい」
「それは、あの、私がずっとここにいても匡さんの迷惑ではないってことでしょうか?」
小さな声で呟いた紗羽の言葉を匡はギュッと手を握ることで肯定した。
「いつか、家族になろう」
「家族?」
「いつか……君がもっと大人になったら家族になろう」
匡の言葉に、パアっと紗羽の顔が明るくなった。
「私、ずっとここにいてもいいんですか?」
「ああ」
「お花が咲いたら、匡さんも喜んでくれますか?」
「ああ」
家族になるという意味を、紗羽がキチンと理解しているとは思えない喜びようだ。
明日の朝、酔いが醒めたら忘れているのではなかろうかと匡は戸惑いを隠せない。
(わかっていないか……)
少し残念だが、今はこれ以上話す必要はなさそうだと匡は思った。紗羽に結婚の話はまだ早そうだ。
だが紗羽の心からの笑顔が、自己嫌悪でささくれていた匡の心を鎮めてくれる。
「それなら、匡さんの好きなお花を植えたいです」
「好きな花?」
「あなたの、好きな花……」
紗羽の少し恥じらう様子が愛らしい。
「ウ~ン……困ったな。浮かばない」
花の名前なんてほとんど知らない匡は真剣に悩んでしまった。
「バラとか、百合とか?」
「いや、そんな派手なのは苦手かな」
「じゃあ、チューリップ」
「ああ、それがいい」
春に咲く愛らしい花の姿を思い出して、匡はホッとした。
紗羽がいっそう嬉しそうに笑ったのだ。この答えに満足してくれたのだろう。
「秋になったら植えますね!来年の春には咲きますよ」
「楽しみにしている」
その和やかな夜のことを、ふたりはそれぞれの心の中に刻み込んだ。
匡は紗羽が自分にとって得難い存在だと再認識したし、紗羽はこの屋敷が自分の居場所だと言われた貴重な夜になったのだ。