一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
恋が実った日
誕生日を祝った日から、ふたりの距離は一気に縮まった。
匡に対して遠慮がちだった紗羽も、自分の意志を伝えられるようになっていた。
さり気ない日常生活を送るうち、お互いの存在がかけがえのないものになっていく。
(朝目覚めて、最初に「おはよう」の挨拶を交わす相手が好きな人だなんて)
しかも匡は紗羽にとって、初めて恋した人だ。
彼が義兄たちとの耐えがたい暮らしから救い出してくれただけでもありがたいと思っていたのに、この屋敷が紗羽の居場所だと言ってくれたのだ。
(幸せすぎて、夢のよう)
思わずゆかりに夏の夜のことを打ち明けると、背中をバンと思いきり叩かれてしまった。
「愛されてるね~」
ゆかりはケロリとして、当たり前のように言う。
「きっとこうなるって思ってたよ。匡さんの独占欲っていうか、凄かったもん」
聞けば、同じテニスサークルに入ったときから『紗羽を頼む』と言われていたらしい。
紗羽に大学で悪い虫がつくのを警戒していたというのだ。
「ご自分は年が離れているから、気にしてたみたい。紗羽が大学生と付き合うんじゃないかって」
「まさか! 私、ゆかりみたいにモテないよ」
慌てて紗羽は否定するが、ゆかりはあっさり秘密を暴露した。
「なに言ってるの。紗羽が無事だったのは、私がさり気なく年上の彼氏がいるって予防線張ってたからだよ」
「ぶ、無事って?」
「手の早いオトコにパクっと食べられたら大変でしょ」
「あ……」
その意味がわかって紗羽は真っ赤になった。
「匡さんが、最初で最後の人になるんだからいいじゃない」
ますます紗羽は顔を赤らめる。
実際には匡とまだ触れあってもいないのだが、彼とそうなることを想像するだけで胸がドキドキと音をたてた。
「ゆかり……」
「幸せになってほしいんだ、紗羽には」