一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
「幸せにするよ、紗羽」
「嬉しいです。とっても」
匡はそっと紗羽を引き寄せて、その額にキスをした。
それだけで驚く紗羽がもっと愛しく思えて、唇にもキスを落とす。
微かに触れるだけのキスだ。
「あ……」
もう火照り始めた紗羽の顔を見つめながら、顎を指先でクイと持ち上げる。
ピンクの唇が半ば開いて誘われている気持ちになってきた。
「初めてか?」
あたり前だろうというような目を紗羽がするのが、また愛おしい。
「これが、本当のキスだ」
紗羽の返事も待たず、匡は甘いキスをした。
紗羽の体から力が抜けてしまうまで、口づけは続いた。
***
匡は紗羽と正式に婚約した。
紗羽はあと一年は大学に通うが、就職活動はやめて卒業したらすぐに匡と結婚する約束だ。
紗羽が大学四年生になった春。
森末家の殺風景だった庭に、赤やピンクのチューリップやスイートピーが咲き誇った。
紗羽と三船が植えて手入れしてきた花々だ。
「こうやって見ると、この庭に花を植えるのもいいものだな」
「よかった。匡さんに楽しんでもらえて」
ふたりは指を絡めて立ち、のんびりと庭を眺めている。
紗羽の薬指に嵌まっているリングに、匡の指が触れた感触が伝わった。
「卒業まで待てなくてごめん」
「匡さん」
紗羽を独占している印に触れたせいか、匡が詫びてきた。
「婚約しておかないと心配だったんだ」
紗羽の左手にはあるのは婚約の証として匡が贈ったシンプルなデザインの指輪だ。
「心配?」
「大学で、誰かと出会うかもしれないだろ?」
「まさか!」
大会社を率いている匡だが、時々紗羽を困らせるような質問をしてくることがある。
そういう時は必ず口角を少し上げていて、いつものクールな彼とは別人になるのだ。
「私は、匡さんが好き」
「紗羽……」
紗羽が匡の指に絡める手に、少しだけ力を込めた。
「初めて会った日から、きっと好きだったんだと思う」