一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
トラブルメーカー
紗羽の新婚生活が始まった。
ついこの前まで学生だった紗羽は、まず主婦業を学ばなければいけない。
なんといっても匡は社長だ。その妻として、まだまだ紗羽は知らないことがたくさんあった。
屋敷を管理することや、匡の会社のことは山根から少しずつ教わる予定だ。
料理などの家事は三船から習うこともあったが、お茶やお花といった習い事は清水の妻が紹介してくれた教室に入門した。
英語の勉強もやめたくなくて、紗羽の毎日は学生時代と変わりないくらい学び続ける生活になっていた。
夜ごと匡から愛されるのも、紗羽にとって未知の知識を得るものだった。
(自分の体なのに、自分でコントロールできなくなる……)
それだけ匡の紗羽に対する愛情が深かったのだろう。
巷では経営難に陥っていた小椋電子をモリスエ・エレクトロニクスが救うための契約結婚のように噂されたが、紗羽の耳には入ってこない。匡や山根が鉄壁の守りで屋敷に暮らす紗羽を世間の荒波から遠ざけていたのだ。
結婚式からひと月程経ったある日、来客予定のない日だったが屋敷のチャイムが鳴った。
「宅配業者でしょうか?」
公にしていなかった匡の結婚が少しずつ広まっていたので、お祝いの品が毎日のように届けられるようになっていた。
三船がインターフォン越しに応対すると、元気な男性の声がした。
『ただいま!』
「は?」
リビングにいた紗羽にも聞こえたので、備え付けているモニターを覗くと男性が見えた。
見かけたことのない顔だ。
「恐れ入りますが、どちら様でしょうか?」
この屋敷に‶ただいま”と言って帰ってくる男性は匡だけなのだから、三船が遠慮がちに尋ねる。
『翔です!』
「は?」
その名を聞いて、紗羽の方が飛び上がるほど驚いた。
「三船さん、匡さんの弟さんだわ!」
「ええっ⁉」
この日、アメリカから翔が帰ってくるなんて紗羽も三船も聞いていなかったのだ。