一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ



「お帰りなさい」
「返信しなくて悪かった! 帰って話した方が早いと思ったんだ」

玄関に出迎えた紗羽に、匡が畳みかけるように話しかけてきた。いつになく慌てているようだ。

「シャワーが先?」
「いや、翔の様子が聞きたい」 

ふたりがリビングに行くと、気をきかせた三船が冷たいお茶を運んできた。

「突然だったので、弟さんになにもお構いできなくて……」

申し訳なさそうな三船の顔を見て、匡が苦笑いした。

「気にしないでくれ。アイツはいつも思いついたらすぐ行動するんだ」

今日の帰国どころか、翔が帰ってくることすら匡は聞いていなかったようだ。
紗羽からのメッセージを受け取って驚いていたら、すぐに翔からも電話があったと言う。

「久しぶりの帰国なのに連絡なしとは、アイツらしいといえばアイツらしいんだが……」

匡からこれまで翔について詳しく聞いていなかったが、どうやら芸術家らしいエピソードが満載のようだ。
大学は父親の希望通り経済学部に進んだが黙って自主退学して美大に入り直した話や、美大時代は家に寄りつかず友人の家を転々としていて父親が亡くなったときにも連絡がつかなくて困った話など驚くことばかりだ。

「君より六歳年上になるか……」
「二十九? 同じくらいかなって思うくらい、若く見えました」
「ストレスフリーな暮らしをしているんだろう」

やれやれといったふうに、匡がため息をついた。

「これからどうするのか言ってたか?」
「久しぶりの日本だから、当分は友達のところを回るっておっしゃっていました」
「そうか……なら、いつここに来るかわからないな」
「はい」

紗羽も、夫の弟にどういう対応をすればいいのか迷っていた。

「迷惑かけることがあるかもしれないが、適当にあしらってくれ」
「適当って言われても……」

匡自身、弟の自由な行動を持て余しているのか紗羽にあれこれと指示してくることもない。
紗羽は年上の‶義弟”をどう扱えばいいのか、困ってしまった。


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