一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


匡も同じ頃、もやもやとした気持ちを抱えていた。
海外から電子部品の輸入が増えて価格面での競争が激しくなったが、小椋電子を傘下に置いたおかげで安定した供給が出来るようになりモリスエ・エレクトロニクスの業績は伸びている。
仕事が順調なのはありがたいのだが、忙しすぎてプライベートの時間が取れない。
数日の夏休みどころか、紗羽と屋敷でのんびりする時間すらないのだ。これでは本末転倒だ。
おまけに弟の翔は、紗羽や三船の生活をかき乱しているらしい。
翔が遊びに来た日は、屋敷の中の空気が違うからすぐにわかるのだ。
三船や紗羽が弟を持て余して疲れているのかと心配したが、ふたりとも翔のペースに染まっているようにも思えてきた。
気にするほどではないと思うのだが、匡はなんとなく落ち着かなかった。

「いったいアイツはなにをしに日本へ帰ってきたのか……」

「社長? どうかなさいましたか?」

匡のひとり言が聞こえたのか、山根が怪訝な顔をしながら尋ねてきた。

「いや、なんでもない。こっちのことだ」
「さようでございますか?」
「何か急ぎか?」

いけないと思いながら、つい気安さから山根には素のままの自分で接してしまう。

「いえ、ご報告がありまして」

山根が週刊誌のゲラを見せてきた。
どうやら翔が学生時代に付き合っていた女性が、今や人気モデルになっているらしい。
ふたりが半同棲しているのではという記事だった。
彼女の運転する小ぶりなスポーツカーから翔が降りてくところや、ふたりで彼女のマンションに入っていく写真が大きく載っている。

「アイツ、友だちのところに行くとか言ってたが……こういうことか」
「いかがいたしましょう?」


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