一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
確かに翔の言うとおり、車でなら片道二時間半くらいの距離だ。
匡が出勤してから出掛けても、夕方までには東京に帰ってこられそうだ。
帰宅が深夜になることもある匡には知られずにすむはずだ。
「三船さん。翔さんが軽井沢に行こうって誘ってくれたの」
紗羽は三船に相談を持ちかけた。
「よろしいんですか? 翔さんとおふたりだけで」
案の定、三船はいい顔をしない。
「匡さんがお休みになれるまで、お待ちした方がよろしいのでは?」
三船の言うことが正しいと思いながら、紗羽は素直になれなかった。
匡は社長として頑張っているから毎日が忙しいのはわかっているつもりだ。
でも仕事を理由に、もう長いこと放って置かれているようにも感じていた。
(私が妻として頼りないから……自立できていないから……)
紗羽はベッドを共にする以外、匡から妻として扱われていない気がしてならない。
「匡さんは今とても忙しいんですもの。私がわがままを言って無理させたら申し訳ないわ」
匡に迷惑をかけたくないと話せば、三船も納得したようだ。
「そうですね。紗羽さんにとって懐かしい軽井沢の別荘ですから、少しでも早く行きたいでしょうし……」
三船も迷いはしたようだが、紗羽の気持ちにも理解を示してくれた。
匡に迷惑を掛けたくない気持ちと軽井沢に早く行きたい気持ちが混ざった紗羽に、『ダメです』とも、『やめましょう』とも言いずらかったのだろう。
「彼には内緒にしておきたいの。お願い、三船さん」
「わかりました。とんぼ返りでしょうから、くれぐれも気をつけてくださいよ」