一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ



紗羽と翔は、ふたりで軽井沢に行く計画を立て始めた。
日時や持ち物をどうするか決めていると遠足にでも行くような気分になってくる。
車は屋敷にあるうちのどれを使うのかと翔に尋ねたら、森末家の車で行くのではなく友人から借りると言う。
その言葉通り、約束した日に翔は小ぶりの真っ赤なスポーツカーで森末家の門の前に乗りつけた。

「夕方までには紗羽さんを送り届けるからね。晩ごはんよろしく!」

翔はいつも以上にはしゃいで、三船に帰宅時間の約束をしている。

「いってらっしゃいませ」

三船に見送られて、紗羽は翔の運転する車で軽井沢へと出発した。

(やっと行ける……)

紗羽の心は弾んでいた。
匡とならもっと嬉しかったけれど、思い出深い場所には変わりない。

八月もそろそろ終わりに近いから、むこうは秋の気配が感じられる頃だ。
一度は失ったはずの懐かしい場所に行くことが出来ると思うと、紗羽は涙が出そうなくらいだった。

だが、ふたりだけのドライブは順調とは言えなかった。
紗羽にとって計算外だったのは、翔の運転がかなり乱暴だったことだ。
いつも安定した走りをする匡の運転に慣れていたせいか、まるでジェットコースターにでも乗っている気分だ。
小ぶりなスポーツカーを運転している翔はご機嫌なのだが、スピードを上げたり下げたり車線変更をしたりと落ち着かない。
紗羽は珍しく車に酔ってしまった。めまいがするような、むかつくような気分の悪さだ。



< 92 / 154 >

この作品をシェア

pagetop