一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
高原は秋の風を感じさせてくれた。
澄んだ空と心地よい空気。萩の花が早くも咲き始めている。
(ああ、この景色……軽井沢だ……)
学生の頃に匡が連れて行ってくれたのは海に近い森末家の別荘だから、ブナの森を見るのは久しぶりだ。
「ナビで場所がわかるかな?」
「あ、わかりにくいから私が案内しますね」
紗羽が助手席から不慣れな翔に道案内をする。
森の中を真っ直ぐ走るだけはいえ、一本曲がり角を間違えたら大変なことになる。
「あ、次の角を曲がったところです」
「了解」
森の向こうに開けた土地が見え、白い柵に囲まれた小椋家の別荘が姿を現した。
車を乗り入れる場所にはチェーンがかかっていたので、門前で車を降りて歩くことにした。
「カギは持ってるの?」
「一応。匡さんから預かっています」
「じゃあ、中に入ってみる?」
「え? 勝手に入っていいんでしょうか?」
「所有者がなに言ってるの⁉」
翔は笑いながらスタスタと石畳を母屋の方へ歩いていく。
彼のあとを追いかけるように紗羽も進んだ。
別荘の外観は以前のままだったが、かつて母が手入れして庭は雑草園に変わり果てていた。
優美な彫刻のある木彫りの玄関ドアは昔のままだ。その前に立つと翔が紗羽に言った。
「紗羽さん、開けて」
ドキドキと胸が高鳴ってきた紗羽の手は少し震えている。
「もう五年以上、経つんです……」
カギを回してから、ドアを押した。少し軋む音がしたが、すっと開く。
最近まで改修工事をしていたし、閉め切っていたせいかモアっと薬品のような臭いが鼻をつく。