一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
(あれ?)
薬を飲んでから三十分もしないうちに、紗羽はフラフラと足元が浮かんでいるような気分になってきた。
二階にある両親の使っていた部屋の窓を開けていた時だった。
(どうしたのかな? めまい?)
眠いような、体がずんと重くなったような変な気分だ。思わず床に座り込んだ。
「あれ? どうした?」
近くにいた翔がびっくりして飛んでくる。
「チョッと眠くて……」
「え? 紗羽さん、眠いの? どうして? え?」
紗羽の記憶にあるのは、翔の焦った声だけだった。
***
しとしとと長雨が降り続く頃、片田舎の小さなスーパーの従業員控室。
パートの女性たちが昼休憩の時間だから集まっていた。
持参の弁当を食べる者、店で買ったパンを食べる者と様々だが、お喋り好きというのは変わらない。
賑やかに次から次へと話題が豊富で楽し気だ。
子どものこと、姑のこと、夫のことといくらでも喋ることはある。
その輪から外れた部屋の隅で、小椋志保は無表情なままサンドウィッチをかじっていた。
その目に気力はなく、やつれた面立ちだ。
ついこの前まで田園調布の豪邸に住んでいたというのに、今はパートタイマーで働いている。
しかも顔を見られたくないから花形のレジ打ちではなく、バックヤードで重い荷物を運ぶのだからやりきれない。