一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
こんなはずではなかったという思いが、片時も志保の心から消えることはなかった。
(お屋敷に住んで、好きなだけ買い物して……)
大阪から東京に引っ越してから、一生分の買い物をした気がする。
義父が生きている頃は夫の孝二を東京の屋敷に呼んでくれなかったから、あんなに優雅な暮らしができるなんて夢のようだった。
孝二は若い頃は小椋電子の本社で働いていたが、少々羽目を外しすぎて大阪の子会社に飛ばされたと聞いている。
(会社のお金をギャンブルに使い込んじゃったのよね。だからお義父さんに嫌われてたんだわ)
自分の夫が義父に大事にされていなかったと思うと腹立たしかった。
夫のしたことが悪いのだが、今となってはどうでもいい。
だから余計に、大きなお屋敷で義父に愛されて育った紗羽が憎かった。
最近になって夫は近くのガソリンスタンドで経理の仕事にありついていたが、以前のような高収入ではない。
(子どもたちを育てるために、これから何年こんな暮らしをしなくてはならないの?)
うんざりした気分のまま、志保はパラパラと週刊誌をめくる。
控室に転がっていた、少し前の女性誌だ。
‶モリスエ・エレクトロニクス”の文字が目に飛び込んできた。
(あの憎いモリスエ……)
そもそも志保がこんな生活に追いやられたのは、あの若い社長が紗羽を庇ったからだ。
志保にとって森末匡は、豪華な暮らしを奪った仇のような存在だ。
その雑誌には、森末翔とモデルの熱愛報道の記事が載っていた。
(ふん。モリスエ・エレクトロニクスの社長の弟くらいでもネタになるのね)
ふと、志保の目に光が戻った。
こんなつまらない密会が記事になるなら、もっと大きなスキャンダルを売ったらどうだろう。
志保は思わずニンマリとしかけたが、周りの目が気になったので慌てて笑いを堪えていた。
(いいこと思いついちゃった)