一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
車は比較的よく流れたので、午後三時過ぎには匡は軽井沢に着いていた。
ナビを頼りに、初めて訪れる小椋家の別荘を探す。
ブナの森を抜けて一本道だったはずだ。
曲がり角を探して慎重に運転していたら、小径の先に赤い小型のスポーツカーらしき車が見えた。
その車のある位置が、ナビが示す小椋家の別荘だ。
翔が乗ってきた車だろうと思い、匡もその横に愛車を止めて門から入る。
庭は少し荒れていたが外観は美しく保たれており、かつての優美な姿を偲ばせるようだ。
一階の窓が開いていて、カーテンが風に揺れているのが見えた。
(まだ、ふたりとも別荘にいるようだな)
紗羽が匡に内緒で行動するのはこれが初めてだった。
(そんなにも両親との思い出がある場所に来たかったのだろうか……)
紗羽の気持ちを『仕事が忙しい』という理由だけで無視してしまったのが悔やまれた。
石畳を歩きながら庭を見渡せば、庭仕事など興味がない匡にもかつての美しさが想像できる。
雑草が茂っているが、その間にチラホラとバラや名前を知らない花が咲いている。
(もう一度、以前の美しさを取り戻せたら紗羽は喜ぶだろうか)
今回の埋め合わせに庭の工事を始めさせようと考えながら、匡は玄関のチャイムを鳴らした。
電気は通じていないのか音はしない。
重い木製のドアを押すと、不用心なことに開いていた。
「紗羽?」