ダメな私は失声症の君と同居する
とんとん,と肩を叩かれた。
人々が存在が無いかのように目の前を走り去る私にとって,それはとても驚いた。
現れたのは,薄い茶髪に真っ黒な瞳の男の子。
パッと見,彼は私と同じ高校生辺りであろう。

男の子は,両手を使って何かを始めた。
「……手話?」
こくっ,と彼が頷いた。
「もう一度,お願い出来る?」
0.5倍速で繰り返される。
「どう,したの?」
そう,と彼は頷いた。
初めてレポートの調べ学習に意味を感じる。
「んー……捨てられちゃってね。どうしようか,って思ってたところ。」
私が軽く笑ってそういうと,彼は私の袖をちょい,と引っ張った。
そして着いてきて,と手を振る。
見ず知らずの男子に着いていくのは危険性もあったが,何故か彼だけは大丈夫な気がした。
もしかしたら,声を発しなくとも伝わる彼の優しさ故かもしれない。
私は素直に彼に着いて行った。
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