もう遠慮なんかしない
急進展
そして、システムが完成して納品の日を迎え、社員向け研修講師として相澤さんと二人で水口食品に向かっていると、相澤さんが珍しく不愉快そうに言った。
「やっとこの仕事に方が付くな」
「そうですね。無事に納品できましたし、今日の研修が終われば後はサポートセンターがサポートしていきますもんね」
私も相澤さんと同じ気持ちだというつもりでいた。
「まぁ、そういうことにしておくか…俺らはこれで終わりだしな」
いつもはっきり物を言う相澤さんにしては歯切れの悪い言い方だな…とも思ったけど、研修のことで頭がいっぱいだったのでその後の会話は段取りなどを打ち合わせしながら歩いていた。
研修が終わり榎本さんと相澤さんが挨拶をしていると、相澤さんのスマホに着信があり「後を頼む」と言って先に社に戻っていった。
研修会場の片付けを手伝っていると横に田代さんがやって来た。
「中西さん、あのさ…今日で、もううちの会社に来ることもなくなるんだよね?」
「はい。この後はサポートセンターが引き続きサポートをしていきますので、私がこちらにお邪魔する機会はないと思います」
「…そうだよね……」
顎に手をあて何か考える様子の田代さんを横目で見ながら、帰り支度を急ぐ。
別の案件でトラブルがあり、相澤さんが呼び出されたからには、私も早く戻らないとまずいだろう。
ところが、田代さんはまだ何かを言いたそうに横にいたら突然真剣な顔で私の正面に立った。
「あのさ…中西さんのこと、ずっと気になっていたんだ」
そう言われて、何を言われたのか一瞬理解できず、その場を離れようとすると手を捕まれる。
「こんなこというと信じられないって言われるかもしれないけど、実は初めて会った時からずっと…どうやったらもっと親しくなれるのか考えていた…」
突然の告白にドキドキして、言葉が途切れ途切れになる。
「えっと…私…早く戻らないと…」
握られた手に力がこめられ、真剣な瞳とぶつかる。
「本当に一目惚れで…君ともっと一緒にいたい。この気持ちを伝えたくて、プロジェクトが終わるのを待っていたんだ。今は仕事に戻らないといけないと思うから、一旦は離すけど…今度は職場ではないところで会いたい」
「えっと…とにかく今は社に戻ります」
狼狽える私の耳元で囁くように告げられる。
「わかった。今晩連絡してもいいかな?」
「はい」と返事をすると彼の手が離れていく。私は急いで研修会場から出た。