もう遠慮なんかしない
翌朝、隣で寝ている明人さんの顔を眺めていると、ふっと目が開いた彼と視線が合った。
「おはよう」
「…おはようございます…」
朝から熱烈な抱擁を受け、裸の彼の胸に顔を埋める。
頭に口付けされて、顔を上げると唇に口付けされた。
あまりにも甘い朝の微睡みにボーっとなっていると、耳元で話しかけられる。
「すれ違いの時間を埋めていきたいんだ…夜寝るときに一緒に寝られたり、朝に『おはよう』が言えたらいいな…ってずっと考えていたんだ」
「えっ?」
「うん。だから結婚してくれないかな…って思っているんだ。昨日の今日って感じで凛花には早すぎる?」
「いつから?…いつからそんな風に考えてくれていたの?」
「初めて会った時から考えていた。でも、今朝気持ちがはっきりした。こんなに満たされた気持ち初めてなんだ」
「本当に?だって…初めて会った時、視線を感じて昭人さんを見ると、目をそらされて…全然そんな感じしなかったよ」
「あっ、あの時はめちゃくちゃテンパってて。それに、凛花の傍に相澤さんがいただろ。最初の頃は凛花と相澤さんの仲を疑っていたしね」
「えっ?そうだったんですか?」
と初対面の時を思い出して苦笑いをする彼を可愛いと感じてしまった私。
「あの会議室で初めて凛花を見た時、すごくドキドキしていたんだぞ。俺の好みのタイプの子がいるって。それからは出来ない男だって思われたくなくて、必死に勉強したよ」
「…そういわれてみればたくさん視線を感じてました。それと、私の仕事がやりやすいようにしてくれてるって思っていました」
「本当にそう思ってくれてた?」
「はい。明人さんの何気ない気遣いが嬉しかったなって、あの時思っていました」
気がついたら、お昼近くまでベッドで過ごしていた。
その後二人で今後のことを話し合い、それぞれの家族へ挨拶をすることになった。
私はすっかり彼のペースに乗せられ、気がついたら婚姻届の妻になる人の欄を埋めていた。
あまりの急展開に心配する父から言われたことは
『こんなに急いで結婚しなくても、もっとお互いを良く知ってからでもいいんじゃないか』だった。
親として、今まで彼氏の話など聞いたこともなかったのだから、当然の反応だと思う。でも、そんな父に明人さんははっきりと言い切った。
「いえ、凛花さんのような素敵な女性を放っておいたら、いつ誰にさらわれるか分かりません。1日でも早く夫婦という形になりたいんです」
そんなことを真剣な顔で言うものだから、父は私が良いなら…と、証人となってくれたのだ。