もう遠慮なんかしない
私の自宅から実家は車で15分ほどの距離なので、彼と話しているとすぐに家に着いてしまう。
マンション前に車を停め、彼は私の手を取り運転席側に引き寄せると
「明日、大安だから一緒に婚姻届を提出に行こう」
「明日ですか?明日は日曜日ですよ?」
「平日だとなかなか予定が合わないだろう。土日でも婚姻届は受付してくれるから、明日は10時に迎えにくるよ」
「まだ、明人さんの挨拶してませんよ」
「大丈夫だよ。先に電話で『結婚したい人がいる』と伝えたら、喜んでくれた。今、旅行中だからって言われて、先に籍を入れるって話しておいたから」
と言い、頬に軽くキスをしてきた。
「夫婦になるんだし、早く一緒に暮らそう。とりあえず明日婚姻届を提出したら、荷物の整理手伝うよ」
恋人たちの結婚までの期間って、どのくらいが普通なの?
なんて考えている余裕がないままに、証人欄までも埋められた婚姻届は役所へ提出するだけになっていた。
翌日、時間通りに来た明人さんと近くの役所に婚姻届を出しにいき、受理された。
これで夫婦になったのだと、微笑みあう。
「恋人の時間が少なかったから、結婚後しばらくは二人の生活を楽しもうね」
「私も同じことを考えてました。夫婦二人の時間を大事にしたいなって」
お互いに笑みを浮かべて、どうやって二人でいる時間を増やそうか、いつまで二人でいるかなど未来予想図を描いていた。
二人で手を繋ぎ、歩いて私のマンションに戻る。
「いつかは家族を増やしたいね。お互いの仕事のこともあるから、当分の間は様子を見ながら、時期も含めて二人で考えようね」
「あの、私、結婚後も仕事は今まで通りに続けててもいいんですよね?」
「もちろん。真面目に仕事に取り組む姿勢に引かれたんだよ。ダメなんて言うわけないだろう」
「そう言ってくれて嬉しい」
彼の胸に飛び込み彼を見上げると、彼が顔を傾けて口づけてくれる。
初めは触れるだけの軽いキスだったのが、自然と熱くて深くなっていく。
そうして、二人で寝室へと移動する。
私の初めてのキスもその先も彼が教えてくれた。
職場への結婚報告を済ませると江川さんがすごく驚いていて、こちらがさらに驚いた。
古田さんからは「やっぱりね。おめでとう」と予想通りだったと言われてしまった。
私は周りから祝福の言葉をもらい喜んでいたため、江川さんの「あいつ…凹むな…」という呟きには気がついていなかった。
それと少し離れた所から見られていることも知らなかった。
その後、私は開発に関わりだすと残業が増え、彼も繁忙期は忙しくなったりして、同じ家に住みながらも会える日が少なくなっていた。
「家事のことまで無理しないでいいよ。できる方がやればいいし、多少家事ができてなくても全然気にしなくていい。俺も一人暮らしをしていたから、一通りのことはできるし大丈夫だ」
こんな彼の温かい気遣いが嬉しかった。
「ごめんね。もう少しで落ち着くと思う。そうしたらまた家のことも頑張るから」
「頑張ることじゃないから。俺が忙しい時にはいろいろサポートしてくれただろ。今は俺が凛花のサポートをするから、無理はするなよ」
「ありがとう。大好き!」
このまま来年も再来年もずっと一緒に暮らしていくことが当たり前だと思っていた。