もう遠慮なんかしない
亀裂
1回目の結婚記念日を二人でお祝いした半年後、夕飯を一緒に食べていた時、改まって彼から話があった。
「1年経ったしそろそろ子どものことを考えないか?」
「子どもですか…」
「俺はそろそろ子どもがいてもいいかな、って思っているんだ。一人っ子より兄弟がいた方がいいかと考えると、年齢的にもちょうどいいかな、って。どう?」
「年齢…」
「女性だって産んだり育てたりって考えると早い方がいいでしょ」
「そう言われればそうなんですけど…。今もう少し仕事を頑張って、経験と自信をつけてから産休とかに入りたいかな…と考えているんですけど」
「えっ、産休取るの?妊娠したら凛花の働き方は厳しくないか」
「大変ですけど、でも、産休取って復帰されている方もいますよ」
「復帰した後も今みたいな働き方していたら子どもが可哀想だと思うけど。ちゃんと育児出来るの?」
「自信はないですけど…。でも、今年度いっぱいは子どもは作れません。今度の仕事では初めてチーフとして携わることになったので、中途半端も嫌だし、途中で出来なくなると迷惑かけちゃうし…」
「わかったよ。でも、俺も35歳になるんだ。子どものことは真剣に考えて欲しい」
「はい…」
なんとなく意見が合わなくて気まずい空気の中、味を感じなくなってしまった夕食を食べ終えた。
その日は一緒のベッドに入っても、二人背中合わせで眠りについた。
その後、私はしばらく残業続きで帰宅時間は23時前後となり、夫とはすれ違いの生活を続けていた。
「中西、そろそろ9時だぞ帰れよ」
そう声を掛けてくれたのは相澤さんだった。
私が結婚した当初は素っ気なくなっていたけれど、連日22時近くまで残っていると心配して声を掛けてくれた。
今回、私が相手方との調整やシステムの方向性を決めるチーフを任されたものの、最終確認を相澤さんがしてくれている。
だから頑張りたいし、この人に少しでも認められてから、人生も次のステップを踏みたいと思っている。
「はい、でも…後ここまで組んでから帰ります」
「それは明日でいい。ここのところ連日遅くて旦那さんだって心配してるだろう。仕事させ過ぎで、お前の旦那さんから文句言われるのは上司の俺にだろうしな」
早く帰れ、と背中向きに手を振ってくる。
ここでこれ以上食い下がってはせっかくの好意を無駄にしてしまうと考える。
「では、すみませんがお先に失礼します」
「あぁ、お疲れ様」
家には最近では珍しく10時前に帰宅できた。
玄関で鍵を開けて部屋に入ると、部屋は真っ暗だった。