もう遠慮なんかしない
再出発
日を改めて昭人さんと由香さん、私と相澤さんの4人で最後の話し合いをするために会うことになった。
すでに私は引っ越しを終えていたため、会うのは久しぶりだった。鍵を渡して離婚届に記入をすれば完全に他人になる。
夫の欄が記入されていた離婚届に私が記入し、同席の二人に証人欄を記入してもらう。
昭人さんが記入済みの用紙を鞄にしまう。
「じゃあ、今日これから提出しに行くよ」
昭人さんと由香さんが先に席を立つので、「お願いします」と頭をさげる。
「最後になったけど凛花を泣かせるようなことしてごめん。相澤さん、これからも凛花を見守ってください」
今度は昭人さんが私たちに頭をさげる。
「あぁ、そうさせてもらうよ。どうぞお幸せに」
と相澤さんが言うので、私も…と思い二人に向き合う。
「あの…いろいろあったけど、ありがとう。お幸せに…そしてお二人ともお元気で」
「ふっ、今さら言える立場ではないかもしれないけど、二人もお幸せに」
由香さんは静かに頭をさげて、最後に少しだけ申し訳なさそうな笑顔を見せて、挨拶をして別れる。
もうあの二人と関わることはないだろう、ほんの少しの寂しさを感じながら歩き出す。
私たちは相澤さんが車を停めた場所まで移動した。
甘えてばかりはいられないと思い、車には乗らずにここで別れようと口を開く。
「相澤さん、いろいろお世話になりました。今日も付き合っていただいて、本当に助かりました。私一人ではきっとこんなに冷静ではいられなかったと思います」
立ち会ってくれた相澤さんに頭を下げ、お礼をする。
そうすると私の頭に手を置き髪をくしゃっとされる。
「中西…お前は頑張ったよ」
反則級のその笑顔にドキッする。
改めて感じた気持ちを誤魔化すように明るい声で話す。
「あのっ、本当にありがとうございました。これからもっともっと仕事を頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします。じゃあ、私はこれで…」
新たな気持ちでこれから頑張っていこうと、思いっきり腰を曲げ、体を起こした瞬間、相澤さんが半歩近づいてきて手を伸ばし私の腕を掴まえる。
私は引かれるまま相澤さんの胸に飛び込む。
彼の腕の中で顔を上げると、彼の視線がまっすぐ自分に向けられていて、鼓動が跳ねる。