もう遠慮なんかしない
「お前さ…俺が下心も無しにここまで付き合ったって思ってるのかよ」
「えっ?」
思いがけない一言に驚きのあまり理解がうまくできずに見つめ返す。
「お前、初めは俺のことを『好きだ』って顔してたくせに、他の男に言い寄られたらすぐにそっちに行きやがって…。俺がようやくお前への気持ちに気付いたときには結婚するとか言うし…。俺がどれだけ凹んだか知らないだろう」
「相澤さん…?」
「透に…あ、江川になにやってるんだ、ってバカにされたよ」
「江川さんにですか?」
「あぁ、透には俺の気持ちが分かっていたらしいんだけど…俺自身が自分の気持ちになかなか気付けなくて…先越されただろ」
もしかして…相澤さんってば、照れてるの?こんなに恥ずかしそうな慌てたような感じ、初めて見るかも…。
「そんな顔で見つめるなよ」
横を向いた時に見えた耳は赤くなっていた。
「あ、相澤さんが慌ててる姿ってなんだか信じられなくて…」
「よくアシスタントにしていたろ…。仕事がやり易かったからだけど、それだけじゃなく凛花に側にいて欲しかったんだよ。透に『もしかして初恋なんじゃない?だから、自分からアプローチの仕方が分からないとか』ってバカにされてたよ」
「相澤さんみたいにモテモテだった人が初恋って、本当に信じられなくて…なんだか夢をみてるみたい」
「夢じゃないよ」
彼は腕に力を込め、私を強く抱きしめる。
彼の頭が私の肩に乗り、耳の近くで彼の言葉を聞く。
「もう遠慮はしない。…凛花、好きだ。諦めなきゃな…って何度も思ったが、諦めきれなかった。俺と付き合って欲しい。いや、もう待ってられない。結婚して欲しい」
抱きしめられたままの頬を彼の胸に擦り寄せる。
「相澤さん…私…離婚したばかりですよ」
「知ってる」
「じゃあ、100日待ってくださいね」
「100日?」
「…女性は離婚後すぐには結婚できないんですよ」
「さんざん待ったんだ。あと100日くらいなんてことないさ。でも、引っ越しはすぐにでもいいだろう?」
「うふふ、荷造り手伝ってくれますか?」
「もちろん。じゃあ、お兄さんの家に荷物を取りに行くぞ。早く車に乗って」