もう遠慮なんかしない

今回はある食品会社のシステム開発に参加させてもらうことになり、今日はクライアント側との初めての打ち合わせに参加していた。

会議室に案内され入室すると、すでに数名が資料を確認しているところだった。

水口食品さんのメンバーはシステム担当を中心に財務担当と顧客管理担当、総務担当など5人のチームで、チームリーダーは榎本さんというシステム管理部で管理課長補佐という立場の人だった。

打ち合わせ初日は榎本さんの言葉から始まった。

「この度はお忙しい中お集まりいただいて、ありがとうございます。弊社のシステムを変更するための調整会議をTAEシステムさんとこちらの5人で始めていきます。期間は約1年、内容から考えるとタイトなスケジュールになっていますが、皆で協力して進めていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします」


この挨拶の時から、私は私に向けられているとある視線が気になっていた。


1回目の打ち合わせは顔合わせと今回システム化を進める業務の内容を聞いて、現状使用しているシステムの確認をして終わる。

記録をつけていたパソコンを片付けていると、向こうの責任者の榎本さんが相澤さんに話しかけてきた。

「相澤さん、どうもお疲れ様です。うちの社長が今回のシステム開発はぜひ相澤さんに受けてもらいたいと言っていた意味が分かりました」

「いえ、こちらこそご依頼ありがとうございます。貴社の社長と高宮は前からの知り合いだそうで、今回はいつも以上にしっかり作るように言われていますよ」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

二人の会話を近くで聞いていると、顧客管理を担当していた田代さんが笑顔で私の近くに寄ってきた。

「こんなに可愛らしい方がシステムエンジニアさんとは思ってなかったよ」

田代さんも相澤さんほどではないものの、かなりのイケメンで男性に慣れていない私は急に声を掛けられ焦っていた。

「あ…私はまだアシスタントですので…」

次の言葉が出てこなくて相澤さんを見ていると、振り返った相澤さんが田代さんと私の側にきた。

「お疲れ様です。顧客管理担当の田代さんですね。チーフSEを務めます相澤です。今日のお話を聞いていて、まずは今そちらで使用しているシステムの統合が必要と思われますから、資料提供から打ち合わせといろいろとお聞きすることも増えてきますので、何かあれば私かアシスタントの中西まで連絡ください。では、よろしくお願いいたします」

では…「中西、行くぞ」と相澤さんは早々に話を終わらせ、挨拶をして会議室を出ていく。

私も急いでお辞儀をして、相澤さんの後を慌ててついていく。

その時は相澤さんは忙しい人だから、きっと次の予定があるのだろうと思い、急いで退出する相澤さんを追いかけた。
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