もう遠慮なんかしない
接近
「だいぶイメージが繋がってきましたね」
「中西さんも慣れてきたようだし、僕も要領得てきたからね。いい感じで進んでると思うよ」
「えぇ、順調だと思います」
何気ない会話にお互い笑顔になる。
ふと思い出したのだろう、田代さんが握った手を口元に当て笑った。
「そういえば初めて会った時さ、中西さんはすごく緊張していたんだろうけど、動きが硬くてガチガチだったよね。だから、僕からも少しでも気を楽にしてほしくて声を掛けたのに、相澤さんが守るようにすぐに間に割ってきて、あの時は驚いたよ」
「私が緊張していたの気が付いていたんですか?」
「あぁ。相澤さんも…だろうね。彼、中西さんのことすごく心配そうに見ていたよね。もしかして付き合ってたりするのかな…って思ったりした」
真剣な目を向けられ、目が合う。
「相澤さんと私とがですか?えっ?つ…付き合ってなんかいませんよ」
本当は憧れの人ではあるけれど、ただの同僚という立場でしかないので、私は顔の前で手をブンブン振って否定する。
この打ち合わせが始まったころは今まで感じたことのないプレッシャーに気を重くしていたのだが今ではそんなことがなくなり、打ち合わせに行くことが楽しくなっていた。
その後の打ち合わせは水口食品の担当者3人とプログラマーを務めてくれている私の指導員だった古田さんとで行われることが多かった。
当然ながら相澤さんと江川さんは常にいくつかの案件を掛け持ちしているため、打ち合わせには重要案件でないとそうそう参加はしない。
回を重ねるうちにメンバー同士すっかり打ち解けていたため作業は順調だった。
「なんだか中西ちゃんウキウキしてない?」
「え?何か言われました?あっ、そういえば、古田さん…私この仕事好きだな…って、改めて思いました」
「そうなんだ。まあ…確かに最近の中西ちゃん楽しそうだわ」
古田さんは私の浮かれた様子を見て、呆れているようだった。
その古田さんは現在は1歳半のお子さんの育児中でもあり、テレワークと育児時短も取っての勤務になっている。
忙しい中ではあるがメインプログラマーの江川さんのサポートということで、今日の打ち合わせに参加してくれている。
「古田さんみたいに子育てしながら、働き続けられるのが理想なんです」
「そっか。でも、思うようにならないことが多くて辛い時もあるんだよね…」
「やっぱり大変ですよね…。でも、私にとっては頼りになる先輩が仕事も家庭も頑張っている姿を見ていると憧れます。頼りにならないと思いますが、私でできることあったら言ってくださいね」
「ありがとう。中西ちゃん、なんか変わったね。頼りにしてるよ」
「はい、もっともっと頑張ります」
打ち合わせの後の先輩との会話も弾み、自分の中に芽生えた自信が膨らんでいった。