もう遠慮なんかしない
システムの進捗は順調で今日はチーフである相澤さんと江川さんも同席していた。
相澤さんが水口食品の榎本さん他のメンバーに向けて、ベータ版の説明を始める。
説明を終えると財務関係の管理状況や顧客管理の画面を詳しく見ていき、相手の更なる要望などを確認していく。
「そうですね。ここのデータを後で違う集計に使えたりすると便利かな、って考えているんだけど、CSVファイルにするのにボタンを押すだけで出せるようにしてもらえるとパソコンが苦手と思っている人にも使いやすくなると思うんですが…どうでしょうか?」
「ここで入力したもののデータの活用ですか…。私どもはどう活用したいかをお教えいただければ、またデータの出し方などを検討してきますが、具体的にどう使いたいというものがありますか?」
要望を私の方でパソコンに入力していると、プログラマーの江川さんが簡単に修正できる部分をその場で修正していく。
さすが、わが社のできる二人は違う、話の展開も早いのにしっかり伝わる。
「江川さん、ここのところなんですけど、後で社に戻ってから再度作業内容を確認でいいですか?」
「じゃあ、ちゃんと記録残しておけよ」
江川さんはキーボードを叩きながら、私の作業までチェックしてくれて、どちらがSEアシスタントか分からないけど、この二人と組ませてもらえて本当に良かったと思う。
「…では、今日のところはこんな感じで良いですかね?」
相澤さんの言葉で打ち合わせが終わる。
「はい。次回の打ち合わせまでにCSVの活用法をもっと具体的にお伝え出来るようにしたいので、このベータ版試させていただきますよ」
田代さんの後輩だという営業の佐藤さんがそんなことを相澤さんに話していた時、田代さんは私に寄ってきて、私にしか聞こえないほど小さな声で話しかけてきた。
「今度はまた二人で打ち合わせ出来るといいな。楽しみにしてるよ」
「!?」
驚きで声にならず、思わず彼の瞳を見るとニコリと微笑まれた。
私はこの時、私たちの様子を快く思っていない視線には気がつかなかった。
「颯、いいのか?」
「何がだ?」
「いや、何ってあの田代ってヤツ、やたらと凛花ちゃんに絡んでないか?」
「…知らないね。SEには調整力も必要なんだし、きちんと仕事できてるから、いいんじゃね」
「ふーん。まぁ、俺は別にいいけどね」