【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
 超好みの顔が10センチも離れていない場所にある。
 あまりの恥ずかしさに顔を下の方にそらすと、顎をすくわれた。

「ちゃんと俺を見て?」
「っ!」

 近すぎる声と、顎に添えられた手に息を詰まらせる。

 シャワーの後で村城くんの手の方が温かいはずなのに、それ以上に私の顔が熱くなっている気がした。


「わ、顔真っ赤」
「っ!」

 見ないで、離れて。

 そう言いたいのに、息がかかってしまいそうな近さに口を開けない。


 私が何も言えないのをいいことに、村城くんはそのまま嬉しそうに笑った。

「伊千佳さん、かわいい……」
「っっっ⁉」

 そして、ただでさえ近い顔が迫ってくる。

 ギュッと目を閉じると、耳元に彼の吐息がかかった。


「あんまり強引なことはしたくないけど……告白の返事が良いものになるように、努力はしてもいいよね?」
「え?」

 どういう意味なのかと目を開いて彼の顔を見ようとしたけれど、顔の向きを変える前に頬に柔らかいものが触れた。

 チュッと音が聞こえて村城くんが離れていく。


 腕も離れて適度な距離を取った彼は、ちょっとだけ意地悪な目をして微笑んだ。

「おやすみ、伊千佳さん」

 就寝の挨拶をして部屋に向かう村城くんに、私は「おやすみ」と声を掛けることが出来なかった。


「……いま……ほっぺに……」

 村城くんの姿が見えなくなってから呟く。

「キス、された?」

 言葉にして、それが事実だと理解する。

 途端に顔がゆでだこ状態になって、立っていられなくなった私は壁に背中をつけたままズルズルと落ちた。


 キスされた頬を押さえながら、ドッドッドッと大きく早い鼓動を抑えるのに必死になる。

 何が起こったのか、理解しているのにしたくないような気持ちになった。


「あんな村城くんと一週間同じ屋根の下で暮らすの……?」

 色んな意味で、私の心身が持つか心配になった。
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