【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
「聞きたいことがあるからちょっと来て!」
「え? 伊千佳さん⁉」

 驚く村城くんの腕を掴んであまり人が来ない特別棟の方へ向かう。

 そのまま使われていない三階部分の階段に来て、周囲に誰もいないことを確認した。


「伊千佳さん? どうしたの? 学校ではあまり関わらない方がいいのかと思ってたのに」

 気を使ってくれているのかそんなことを言われたけれど、私はそれには答えず自分の聞きたい事を優先した。


「ねえ、これってもしかして村城くんじゃないの⁉」

 バッと彼の目の前に友達から借りてきた雑誌を開いて見せる。

 それは朝見せてもらった人気急上昇モデルのYu-toのページ。


 このYu-toの顔は、昨晩見た村城くんの素顔そのものだった。


「あ、見てくれたんだ? うん、そうだよ」
「……マジなんだ」

 誤魔化しもせずに答えた彼に、私は脱力するように階段に腰を下ろす。

 同じ顔だとは思ったけれど、他人のそら似ということもある。
 そう思っての確認だったけれど、まさか本当に本人だったなんて……。

 でもちょっと納得もした。


「もしかして、それで普段はそんな地味な格好をしているの?」

 この顔のせいで女の子が寄って来て困る、と昨日言っていたことを思い出す。

 モデルをしているから尚更困るようなことがあるのかも知れない。
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