【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
「……そんな伊千佳さんも好きなんだよな……」
「え……?」
またしても真っ直ぐ告げられた好意に思わず彼を見る。
「っ!」
そして息を詰まらせた。
だって、村城くんはボサボサの黒髪に隠れていても分かるほど甘い笑みを浮かべていたから……。
分厚い眼鏡の奥の茶色い目が、とても優し気だったから……。
言葉以上に私への好意を物語っている表情に、鼓動が早くなる。
「え、えっと……その……」
ドキドキして顔が熱くなってきて、それを悟られないようにとうつむく。
なのに。
「伊千佳さん?」
村城くんは手を伸ばして来て、うつ向いた顔を昨日のようにすくい上げた。
そうして目が合うと、昨日のことまで思い出してしまって尚更顔が熱くなる。
「顔、赤いね……」
呟くような村城くんの言葉にも、熱がこもっている様に聞こえた。
近付いて来る顔は地味なはずなのに……その唇の形や顎のラインは昨夜見た私好みの顔だと分かってしまって……。
どうしたらいいのか分からなかった私は、何をされるのか予測出来ていたにも関わらず、ただ瞼を閉じた。
「……かわいい」
少し色気を含ませた囁きがあって……それは触れる。
柔らかく、少し湿った唇。
触れたのは一瞬だったのかも知れないし、数秒はあったかも知れない。
ドキドキしすぎて、顔以外も熱くなってしまった私はそのくらいのことも分からなくなっていた。
唇と手が離れて、目蓋を開ける。
目が合って、気恥ずかしくて視線をそらした。
そんな私に村城くんが掛けた言葉は――。
「……ごめん」
だった。