【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
 しばらくそのままでいるためにキッチンから離れて、ダイニングテーブルの椅子に座る。

 その周りをせわしなくうろうろする村城くんに、八つ当たりだと分かっていてもイライラした。


「ごめん、俺のせいだよね?」
「……なんで?」

 しかもそんな風にまた謝ってくるから、イライラは増していって……。

「その、キスなんかしちゃったから……それでミスっちゃったのかなって……。あの後から伊千佳さん様子がおかしいし」
「……」

 様子がおかしいのは、あなたが「ごめん」なんて謝るからなんだけど?

 怒りに任せて言ってしまいたい気持ちを抑えるけれど、無言でいると肯定したように取られたみたいで……。


「彼氏でもないのに……嫌だったよね……ごめん」

「――っ! もう謝らないでよ!」

 もう村城くんの口から「ごめん」なんて言葉を聞きたくなくて、思わず叫んでしまった。

 声に出してからハッとしたけれど、口から出てしまったものは戻せない。

 ついでに言うと、そのせいで(せき)を切ったように言葉が次々と出て行ってしまった。


「ごめんなんて言わないでよ! キスなんて初めてだったのに……私のファーストキス奪っておいて謝らないで!」
「あ、ごめっ……あ……」

 反射的にだって分かってるけど、また謝りそうになった村城くんをキッと睨む。
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