【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
「確かに彼氏じゃないよ。私がちゃんと返事をしてないんだもん。……でも、別に嫌じゃなかったのに! なのに嫌がるような事してしまったみたいに謝らないで!」

 イライラして、悲しくて、悔しくて。
 感情のままに思っていたことを叫んだ。

 そうして叫んだことで、感情的になったことに少し後悔しながらもスッキリ出来た。

 何度か大きく呼吸をして、気を取り直して叫んだことを謝ろうと思ったとき――。


「嫌じゃ、なかったの?」

 私が謝罪の言葉を口にする前に、聞き返される。

「え?」

 顔を上げて見ると、眼鏡の奥の目が軽く驚いたように開かれていた。


 村城くんは眼鏡を外して、真剣な目になってわたしを見る。

「俺とのキス、嫌じゃなかったって……本当?」
「え? あ、その……」

 感情のままに叫んだからスッキリ出来たとしか思わなかったけれど、私が言ったことはつまりはそういうことだ。

「えと……嫌じゃなかったけど、だからって好きかどうかは……」

 告白の返事はまだできないってことを伝えるためにもそう言った。

 村城くんからの真っ直ぐな好意には、ちゃんと向き合って考えて答えを出したいから……。

 でも村城くんにとって今大事なのは、告白の返事よりも私がキスを嫌がっていなかったってことの方らしかった。
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