【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
 また何か話そうと思うんだけど、鼓動が邪魔をして言葉が出てこない。

 そうしてしばらく無言の時間が過ぎてしまった。


 そうなると今度は声を出すのもためらわれて……。

 ど、どうしよう。
 話を切り出すことすら出来ない……。

 手の体温にまだドキドキは治まらないし、本当にどうしようと困り果てた。

 すると、村城くんの方が話しかけて来てくれる。


「……こうして夜一緒に過ごせるのも、今日で最後だよね?」
「う、うん」

 どう返せばいいのか分からなくて、声もうわずってしまったかも知れない。

 でも、村城くんは気にせず話を続ける。


「やっぱり寂しいな。学校で会えるには会えるけど、クラスも違うし……接点なんて委員会くらいしかないし」

「あ……」

 村城くんも全く同じこと考えてたんだ。

 それが分かって恥ずかしいような気もしたけれど……嬉しかった。


「……目、暗さに慣れてきたね?」
「え? あ、そうだね」

 言われて周囲を見ると、暗がりの中でもぼんやりものが見えるようになっている。

「……伊千佳さん」

 呼びかけに村城くんを見ると、近い分その表情も少しは分かった。

 多分、真剣な表情。
< 43 / 52 >

この作品をシェア

pagetop