【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
 こんなイケメンに会ったこと、あったっけ? と記憶を探っている間にも村城くんの話は続いていく。


「引っ越して、初めての打ち合わせで遅刻できないのに迷ってしまってさ。それで道を聞いただけなのに、その相手から逆ナンされて困り果てていたんだ」

 前に女の子が寄って来て困ることが多いと言っていたけれど、そういうことがあったなら納得だ。

「それを伊千佳さんが助けてくれたんだ。いきなり『お兄ちゃん!』とか呼ばれてビックリしたけどね」

「おにい――あ!」

 そこまで話されて、やっと思い出した。



 確かにあれは去年のことだ。

 一人で買い物に出ていたとき、駅の近くで休んでいたら好みのイケメンがいるなぁと思って見ていた。

 女の子に囲まれて、やっぱりあれくらいイケメンだとモテるなぁって思ったけれど、何だか本気で困ってるみたいで。

 表情から焦りも見えたから、ついお節介をしてしまったんだ。


『お兄ちゃん! こんなところにいたの? 早く行かないと、お母さん待ってるよ⁉』

 って、適当な嘘だけど、妹と思ってもらった方が周りにいる女の人達も諦めてくれやすいかと思って。

『え? あの?』

 戸惑う彼の腕を掴んで、ちょっと強引に引っ張っていく。

 そうすると案の定女の人達は諦めてついて来なかったのでホッとしたんだ。
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