【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
 村城くんが、改めて私を見る。

「カッコイイ俺でも、地味な俺でも、伊千佳さんはちゃんと俺を見ようとしてくれた。そんな伊千佳さんが、俺は凄く好きなんだ。……伊千佳さんは?」

 少しためらいがちに返事をうながされた。


 私は深呼吸をして呼吸を整えようとしたけれど、失敗する。

 だから、早まる鼓動をそのままに、答えた。


「私も、村城くんがっ……好きっ」

 それを伝えると、他にもたくさん言葉が浮かんでくる。

 地味でも優しいところ。
 カッコイイところ。
 モデルの仕事に誇りを持っていて、周囲にちゃんと感謝出来るところ。

 全部が大好き。


 それもちゃんと伝えたいのに、浮かぶ言葉が多すぎて声に出すことが出来ない。

 でも、言わなくてもこの気持ちだけはちゃんと伝わってくれたみたいだった。

 つないでいた手が離されたと思ったら、次の瞬間には抱きしめられていたから。


「伊千佳さん……ぅわ、マジで嬉しい……」

 顔は見えないけれど、抱き締めている腕が熱い。

 私と同じくらい、ドキドキしてくれているのかな?


「村城くん……」

 私も彼の背中にそっと手を回す。

「……」

 でも、少し黙った村城くんは抱きしめる腕を緩めた。

 しっかり感じ取れる体温が離れた代わりに、その真剣な表情が近くに見える。
< 47 / 52 >

この作品をシェア

pagetop