【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
エピローグ
 同居生活も終わった、ひと月後――。

 お昼休みの特別棟。
 その三階の階段のところで私は雑誌片手にお弁当をつついていた。

「そんなにじっくり見て、俺の写真に見惚れてるの?」

 向かい合う状態で目の前にいるのは、今まで通り地味な格好をした唯人くん。

 恋人同士になってからは、毎日ではないにしろ頻繁にこうして一緒にお昼を食べていた。


「それもあるけど、後ろ姿だけとはいえ私も映ってるっていうのがいまだに不思議な気分で……」

 今見ている雑誌に映っているのは当然ながら唯人くんだ。

 とても嬉しそうな、優しい笑みを浮かべている。

 その向かい側に私も後ろ姿だけではあるけれど映っているんだ。


 あの日おまけで撮った私と唯人くんの写真。

 唯人くんの表情が良いから、使わせてほしいと頼まれた。

 だから私の顔が映ってないものなら、ということでこの写真が採用されたらしい。


 好きな子(きみ)だけに見せる顔――。

 という文字が添えられて。


「俺はそっちよりも伊千佳の顔が見えるこっちの方が好きだけどね」

 そう言ってスマホに保存されている写真を見せてくる唯人くん。

 彼のスマホには、あの日撮った写真のほとんどが入っているらしい。

 これでいつでも伊千佳を補給できるから、なんて言われて恥ずかしかったけれど。
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