僕だけが知っている、僕たちの奇跡
真夏の海のように美しい彼女の瞳。
僕はその瞳の芯まで捉えているのに、彼女は僕を通り過ぎて僕の後ろの虚空を見つめている。
彼女はそのまましばらく待って、赤が青に変わったらまた横断歩道へ飛び出して。
自分がずぶ濡れになるのは厭わないのに、道路の雨水が跳ねてワンピースを汚すのを恐れているらしい。
裾をちょこんと摘まんでまたくるりくるり。
幼い子どもが無邪気に水遊びをしているようにも見える。
これを見るのはもう何度目だろうか。
今日で5年が経ったことはわかる。
必ず豪雨になる、僕が死んだ日。
毎年欠かさずに来てくれて5回目だから、わかる。
彼女の久しぶりの登場に驚き、喜び。
1時間ほど続けられた舞いじみた動きに見惚れっぱなしだった。その間に彼女が何度僕を探していたかなんて、数える余裕があるわけもなかった。
彼女が帰っていく背中が物寂しくて、そこでようやく我に返って。
“彼女は僕を忘れたいのに忘れられないんだ”
彼女の言動から、挙動から。悪い未来へ進んでいることを察してしまった。