僕だけが知っている、僕たちの奇跡
身体が動かせる。僕はしぶとく生き延びたのかって安心したのも束の間で。
自分の身体から自分が抜け出す感覚と、君に伸ばした手が君の身体をすり抜けたあの瞬間は今でも鮮明に覚えている。
『嫌だ……死なないで』
担架に乗せられて運ばれる僕へと手を伸ばしながら気絶した君の、15歳の最後の言葉。
崩れる君の身体を支えたのは僕じゃない。君が目を覚ましたときに近くにいたのは僕じゃない。
突き付けられる現実全てが嫌で、でもきっと君は僕以上に絶望していて。
『なんでこんなに悲しいんだろう』
1年ぶりに僕の元へ訪れた君は、感情のない声を落として……でも衝動的に歩道へと傘を投げ捨てたんだ。
***
僕はここにいる。
彼女は僕を探している。
僕らの願いは重なっているのに、交わったことはたったの一度もない。
これから交わることもないだろう。
僕のことが好きだから切れないと言っていた髪は、今でも伸びっぱなしで変わらない想いを僕に教えてくれる。
橙色や黄色といった明るくエネルギーの象徴である色たちが好きだったはずの彼女は、今は喪に服しているような真っ黒や己を律するような紺色を纏っている。
どうせなら完全に僕を忘れて前を進んで欲しいと思う反面、5年経っても変わらない一途な気持ちが嬉しくて、僕の彼女への想いも増すばかりで。
僕はこの場所から離れられなくなってしまった。
昔は多感だった彼女の、今の無機質な表情を見ていたらなおさらのこと。
せめて、彼女の心を救ってあげたい。そう思うのに彼女の世界から見放されてしまった僕にはなにもできやしない。