僕だけが知っている、僕たちの奇跡
「……あれ、見覚えがあるやつだ」
無力な自分に打ちひしがれながらも彼女から目を反らさないでいると、彼女は道端の僕へのお供え物に気づいた。
昨年までは一度たりとも来なかったけど、今日の朝早くに母さんが供えてくれたもの。
うちは周りから羨ましがられるほどに仲が良かったから、母さんもここに来るまでに時間が必要だったんだろう。
久しぶりに見た母さんは5年分以上に老けて見えて、僕はなんて親不孝者なんだって泣きたくなった。
そして、母さんが持っていた僕の大好物だった手作りクッキーを見たら、出るはずもない涙がとめどなく溢れてくるようだった。
僕の家に来たときに彼女も喜んで食べていた母さんの手作りクッキー。プレーンとココアの四角が対角線上に組まれているアイスボックスクッキー。
ちょっと歪で、だけどラッピングのときは丁寧にリボンで閉じられる。彼女の持ち帰り用のクッキーはいつもそうしていたんだ。
クッキーを凝視していた彼女はついにしゃがみ込み、袋を手に取って……抑えきれない感情を瞳から零した。
「これ……私の大好きな……」
彼女は小さな袋を、自分の胸に当てて大切そうに抱き締める。
その間はそっと目を閉じ、今まで奥底に閉じ込めていた思い出をゆっくりと掘り起こしていたらしい。
「取り合うように食べて……でも、お母さんが私の持ち帰る分を別に用意してくれてたっけ」
目の覚めるような涼し気な青からはらはらと涙を零しながら、豪雨に似合わない穏やかな微笑みを浮かべた。